投稿日:2026年5月28日
緑内障に鍼灸が有効な理由を論文で解説|眼圧低下・眼血流改善・視神経保護へのアプローチ
カテゴリ: 緑内障・白内障

「緑内障に鍼灸が効くというのは、本当なのか?」
「感覚的な話ではなく、科学的な根拠はあるのか?」
そう思っている方のために、この記事では国内外の研究論文を引用しながら、鍼灸が緑内障にどのように作用するのかを解説します。
緑内障の標準治療は点眼薬・レーザー・手術による「眼圧を下げること」です。しかし、適切な治療を続けていても進行が止まらない患者が一定数存在すること、そして日本人に多い正常眼圧緑内障には眼圧以外の要因が深く関わっていることから、補完的な治療手段への関心は年々高まっています。
鍼灸はその選択肢のひとつとして、現在も世界各地で研究が進められています。

この記事の執筆者
ミントはり灸院 院長
森本 賢司
高度専門鍼灸師
【略歴】
神戸東洋医療学院卒業
神戸東洋医療学院にて河村廣定先生に師事
明治国際医療大学 大学院 修士課程 修了
神戸東洋医療学院 非常勤講師
【資格】
はり師免許証・きゅう師免許証
鍼灸と緑内障——研究の歴史と現在地
緑内障に対する鍼灸治療の報告は非常に古く、現代中国では1956年にすでに臨床報告があります。その後、日本・台湾・アメリカ・中国などで断続的に研究が行われてきました。
2025年に日本の学術誌「現代鍼灸学」(25巻1号)に掲載された論文「緑内障に対する鍼灸治療の効果とそのメカニズムの解明」(著者:金子聡一郎、新潟医療福祉大学 鍼灸健康学科)では、緑内障の標準治療で効果が不十分な患者に対して、鍼灸治療が血流量の改善や眼圧の低下を通じて緑内障の進行抑制に関与する可能性があると整理されています(DOI: 10.82706/jsmamr.25.1_39)。
この論文では、鍼灸が視覚に対する効果を古くから持つ治療手段であると述べられており、緑内障に対するエビデンスの蓄積が急務であるとの認識が示されています。
国際的なエビデンスのまとめとして、コクラン(Cochrane)レビュー(2018年)では、台湾・米国で行われた3件の臨床試験のデータを分析した結果、鍼灸には眼圧を下げる小さな効果がある可能性があると報告されています。ただし、エビデンスの確実性は現時点では低いとされており、より規模の大きい厳密な試験の積み重ねが必要とされています。
重要なのは「効果がないとは言えない」という現状であり、研究者の関心はむしろ「どのメカニズムで効果が出るのか」の解明に移ってきています。
論文① 眼圧低下に関するランダム化比較試験(台湾・2020年)
緑内障への鍼灸効果を科学的に検証した代表的な研究として、台湾・中国医薬大学附属病院が実施したランダム化比較試験(RCT)があります。
2020年に国際誌「Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine」に掲載されたこの研究(Chen SY et al., DOI: 10.1155/2020/7208081)では、緑内障患者45名を対象に、鍼灸群・電気鍼群・対照群の3群に無作為に割り付け、眼圧の変化を比較しました。
結果として、鍼灸群および電気鍼群では、施術後60分の時点で施術直前と比較した眼圧の低下幅が対照群より大きかったことが示されました。
この研究は10年以上の鍼灸経験を持つ専門家が施術を担当し、倫理審査委員会の承認とClinicalTrials.govへの登録のもとで実施されており、研究としての信頼性が確保されています。
この研究が示す重要なポイントは、鍼灸の刺激が眼圧の一時的な低下だけでなく、眼への血流(眼灌流)や眼球血流の増加にも作用する可能性があるという点です。眼圧を下げる作用と、眼底への血流を増やす作用という2つの方向から、緑内障の進行を抑える可能性が示されています。
論文② 補助療法としての鍼灸——進行中の国際RCT(2023年〜)
現在進行中の研究として注目されるのが、2023年に試験登録されたランダム化比較試験「Acupuncture as Adjuvant Therapy for Glaucoma」(ClinicalTrials.gov登録番号:NCT05753137)です。この試験のプロトコルは2024年に「JMIR Research Protocols」に公表されています。
この試験では、原発開放隅角緑内障(POAG)の患者50名を対象に、眼科的鍼灸(得気感覚あり)を受ける治療群と、眼とは関係のないツボへの最小刺激を行う対照群に無作為割り付けし、週1回・合計6セッションの施術を行うものです。
評価項目は眼圧だけでなく、視野検査・最良矯正視力・光干渉断層計(OCT)・OCT血管造影・緑内障症状スケール・QOL問診票など非常に幅広く設定されており、鍼灸が緑内障患者の生活の質全体にどう影響するかを多角的に検証することを目的としています。
この試験が示すのは、鍼灸の緑内障への研究が「可能性の探索」から「標準治療への補助としての有効性検証」という段階に進んできているという事実です。眼圧を下げる点眼薬と鍼灸を組み合わせることで、点眼薬単独では得られない視機能の改善や眼血流の調整効果が期待されています。
論文③ 押し鍼(プレスニードル)による視機能・眼血流への効果(多施設RCT・2023年〜)
別の研究として、眼圧がコントロールされている緑内障患者を対象に、押し鍼(プレスニードル療法)の視機能・眼血流への効果を検証する多施設ランダム化比較試験があります(NCT登録済み)。
2023年2月から参加者募集を開始したこの研究では、2024年10月時点で220名の対象者が登録され、そのうち192名(87.3%)がプロトコルを遵守して試験を継続中であり、当初の見込みを上回るペースで進行していると報告されています。
この研究の目的は「鍼灸が眼循環を調整することで、視機能を改善できるか」という問いへの答えを出すことです。眼圧は薬でコントロールできていても視野が進行し続けるという正常眼圧緑内障の問題に対して、眼血流というアプローチから解決策を探る研究として注目されています。
なぜ鍼灸が眼圧・眼血流に影響を与えるのか——メカニズムの整理
複数の研究で共通して報告されている鍼灸の作用メカニズムを整理すると、以下の3つに集約されます。
① 自律神経を介した眼圧調整
眼圧の上昇には交感神経の過剰な緊張が関与しています。鍼灸の刺激は自律神経系に作用し、交感神経の過剰興奮を抑制することで、房水の産生・排出バランスを整え、眼圧を安定させる方向に働きます。これは、緊張・ストレス・睡眠不足で眼圧が上がりやすい患者にとって特に意味のあるメカニズムです。
② 眼底・視神経周囲の血流改善
緑内障では視神経の血流が低下している部位と視野障害のある位置が一致していることが知られています。鍼灸の刺激は毛様体血管に対して調整作用を持つことが報告されており、眼球の血流改善を通じて視神経乳頭の微小循環障害を解消する可能性があります。特に正常眼圧緑内障では、この血流改善のアプローチが重要な意味を持ちます。
③ 視神経の神経保護効果
動物実験レベルでは、電気鍼刺激(足三里・曲池などのツボへの通電)が緑内障モデルラットの網膜においてニューロプロテクティブ(神経保護)な効果を持つという報告もあります(Ren C et al., Evid Based Complement Alternat Med, 2022)。鍼灸が網膜神経節細胞を保護し、視神経の変性を緩やかにする可能性が示唆されており、今後の研究が注目されます。
研究の現状と正直な評価
鍼灸と緑内障に関する研究を正直に評価すると、現時点では以下のように整理できます。
まず、眼圧を一時的に下げる効果については、複数のRCTで示されており、ある程度の根拠があります。ただし効果の大きさは小さく、効果の持続時間についても十分なデータが揃っていません。
次に、眼血流の改善については、動物実験・症例報告・小規模RCTを含む複数の研究で一貫して示されており、特に正常眼圧緑内障への応用として期待が高い分野です。
一方で、視野の改善という最も重要な結果については、まだ質の高い大規模試験での検証が途上にあります。現在進行中の複数の大規模RCTの結果が出ることで、この点のエビデンスが大きく前進すると期待されています。
コクランレビューが「エビデンスの確実性は非常に低い」と評価した理由は「効果がない」ということではなく、「試験の規模が小さく・手法がばらばらで・追跡期間が短いため、確かなことが言えない」という意味です。現在進行中の試験はこれらの問題点を改善して設計されており、今後数年以内に重要なエビデンスが出てくる段階にあります。
どのようなツボが使われるのか
緑内障に対する鍼灸施術では、目の局所と全身のツボを組み合わせて使うのが一般的です。
目の周囲のツボとしては、晴明(せいめい)・攢竹(さんちく)・太陽(たいよう)・風池(ふうち)・瞳子髎(どうしりょう)などが用いられます。これらのツボは眼部の血流改善・眼周囲の筋緊張の緩和に作用します。
全身のツボとしては、足三里(あしさんり)・合谷(ごうこく)・太衝(たいしょう)・肝兪(かんゆ)・腎兪(じんゆ)などが使われます。東洋医学では目は「肝」と「腎」に深く関わると考えられており、これらの臓腑のツボを刺激することで、全身の気血の循環を整え、目への栄養供給を高めます。
また電気鍼(鍼に微弱な電流を流す方法)を組み合わせることで、血流促進・神経刺激の効果をさらに高める場合もあります。施術内容は患者の体質・全身状態・緑内障の種類によって異なります。
点眼薬との併用はできるのか
鍼灸は緑内障の標準治療(点眼薬・レーザー・手術)と併用することができます。現在進行中の臨床試験も、点眼薬による標準治療を継続しながら鍼灸を「補助療法(アジュバント療法)」として加えるという設計で行われています。
現在の点眼薬を自己判断で中止することは危険です。あくまでも眼科の定期受診・標準治療を継続しながら、鍼灸を「もう一本の柱」として加えるという考え方が正しいアプローチです。
点眼薬では対処できない「眼底血流の問題」「自律神経の乱れ」「全身のコンディション」という領域に鍼灸が補完的に働くことで、標準治療だけでは届かなかった部分にアプローチできます。
まとめ
緑内障に対する鍼灸の効果については、国内外で複数の研究が蓄積されつつあります。
2025年の国内論文では血流改善・眼圧低下の可能性が整理され、2020年の台湾RCTでは施術後の眼圧低下が対照群と比較して示され、2023年以降の大規模RCTでは視機能・眼血流・QOLへの効果が多角的に検証されています。
現時点でのエビデンスは「確立された」とは言えませんが、「有望な補助療法として研究が進んでいる」という段階にあります。特に日本人に多い正常眼圧緑内障に対して、眼底血流の改善と自律神経の安定化というアプローチは、点眼薬だけでは届かない問題を補う可能性を持っています。
点眼薬を続けながらも進行が気になる方、眼圧は正常なのに視野が欠けていると言われた方、全身のコンディションも含めて管理したいという方は、眼科の主治医に相談しながら鍼灸を選択肢のひとつとして検討してみてください。
※本記事は情報提供を目的としたものです。緑内障の治療・管理については担当眼科医にご相談ください。
【参考文献】
・金子聡一郎「緑内障に対する鍼灸治療の効果とそのメカニズムの解明」現代鍼灸学 25巻1号 p.39-45(2025)DOI: 10.82706/jsmamr.25.1_39
・Chen SY et al. “Effect of Acupuncture on Intraocular Pressure in Glaucoma Patients: A Single-Blinded, Randomized, Controlled Trial.” Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2020. DOI: 10.1155/2020/7208081
・JMIR Research Protocols “Acupuncture as Adjuvant Therapy for Glaucoma: Protocol for a Randomized Controlled Trial.” 2024. ClinicalTrials.gov: NCT05753137
・Cochrane Review “Acupuncture for treating glaucoma.” 2018.
当院「ミントはり灸院」は、根本から改善することに特化した神戸の鍼灸院です《年間10,000人超の実績》。六甲道駅3分”六甲院”/三ノ宮駅6分”三ノ宮院”/明石駅5分”明石院”の3店舗がございます。全室個室でマンツーマンで施術しています、ぜひお越しください。























