神戸市で治療実績豊富なミントはり灸院が症例2 苦くて何も食べられないの治療記録をご紹介しています。

■症例2 苦くて何も食べられない

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患者

70代女性 神戸市

来院

202X年5月

症状

下咽頭がんのため半年前に1ヶ月間の放射線治療および抗がん剤治療を行ったところ、味覚障害になった。経口摂取は可能だが何を食べても苦く感じ、食べたくても食べることができない。唯一アイスレモンティーは飲める。亜鉛の摂取も行ったが効果はなかった。食事がとれないため現在胃瘻を行っている。
その他にも痰が絡みやすく咳が出だすとなかなか止まらない、便通が悪くお腹が張って苦しいなどの症状もあった。現在は病院で経過観察中。処方されたピコスルファートナトリウム経口液やマグミット錠を飲んでいる。
もともと外食が好きだったが今は食事が楽しめないとのこと。もうすぐ仕事を再開し会食も増えるため、何かできることがないかとネットを検索。当院を受診することになった。

治療内容と経過

触診をすると鼻、咽、気管、大腸、膀胱に反応があり、鼻と咽の反応の悪さが特に際立っていた。また顎や首肩、背中の筋肉の緊張も強かった。
お話を聞くと鼻水が出やすく、緑色の鼻水が出ることもあるとのこと。唾液が出にくく口が乾燥しやすいともおっしゃっていた。

カウンセリングや触診の結果から、鼻炎による炎症が咽頭部にまで広がり味覚障害や咳・痰といった症状を起こしていると考えられた。また鼻炎の影響で口呼吸になり唾液が少なくなっていたことも口腔内の環境を悪化させている要因になっている考え、鼻や咽を中心に治療を開始。また首や肩の緊張も強く、鼻や咽への血流が悪くなり、より症状を長引かせていると考え同時に治療した。

鼻や咽、気管、顎の筋肉には鍼やローラー鍼を用いて刺激を加えた。
腹部は鍼とせんねん灸を使用。
腹臥位で首肩や背中に横刺と斜刺にて刺激を加え、筋緊張をとった。

自宅でローラー鍼を用いた鼻のセルフケアと唾液の分泌を促すため1分間の顎のマッサージを指示した。
鼻や咽の反応の悪さが顕著であったことや本人の早く治したいという気持ちが強かったため、初めの2週間は週に3回。その後は症状の変化に合わせて、週に2回、1回と徐々に間隔を空けながら治療を行った。

【味覚の変化】
5回目 コーンスープが美味しかった。半年ぶりに満腹感を感じた。レモンやオレンジは苦くて食べられなかった。
9回目 友人とランチに行き、ピザ、スープ、プリンは数口食べることができた。中華ラーメンは苦くて食べられなかった。酸味、塩味、辛味は感じにくいのかもしれない。
11回目 えび天が美味しかった。そばは食べられなかった。だしの味がわからない。
19回目 チーズパンを半分食べられた。
20回目 えだまめが美味しかった。桃は食べられなかった。
23回目 親子丼を少し食べられた。
28回目 1口目は食べられるが、2口目は苦く感じる。
33回目 やきそば1/4食べられた。
35回目 ラーメン少し食べられた。コーンが美味しかった。チャーハンは×。ステーキは塩をたくさんかけるとわかる。少しずつ塩味が回復していると考え、多くかけても構わないので食べることを勧めた。
36回目 干し芋食べられた。甘味は美味しく感じることが多い。逆に酸味・だしのうま味が感じづらい。レモンやかつおぶしなど酸味やうま味を感じやすいもの単体で食べる味覚のトレーニングを勧めた。
37回目 カレーを食べられた。
38回目 食べられるものが増えた。レモンは味がしなかった。
39回目 牛丼一杯食べられた。キムチも美味しかった。

【その他の症状の変化】
2回目 鼻がとおりやすくなった。お腹は張る。
3回目 治療後当日と翌日は咳・痰がましだった。首肩こりも良くなっている。
5回目 咳・痰は出たり出なかったり波がある。便が出ることが増えた。
7回目 鼻や咽の変化が良いので週に2回に切り替える。
8回目 寝ると痰が絡む。
9回目 お腹の張りましになった。背中の痛みもない。
15回目 咳の強さがましになった。週末あまり動かなかったのでお腹の張りが強かった。食べられるものも増えてきて負担がかかりやすくなっていると考え、胃の治療も開始。
16回目 今日は咳・痰が強く出た。その他の日は調子が良かった。鼻水も出にくくなった。
19回目 痰絡みにくかった。咳は少し出る。緑色の鼻水が出ることがなくなった。
22回目 寝るとめまいがする。以前から度々あった。耳の治療を追加した。
23回目 鼻水が出なくなった。咳をするとくしゃみも出る。めまいはなくなった。
27回目 鼻がかなりよくなってきた。鼻水、鼻づまりはなし。あとは鼻の奥に違和感があるくらい。顎の緊張も和らぎ唾液も出やすくなってきた。
29回目 周りに風邪を引いている方が多く、風邪気味。咳や痰も多かった。
30回目 その後はひどくならず回復した。
36回目 鼻の奥の違和感が気にならなくなってきた。咳も1日に1~2回まで減った。

その後は目の手術のため入院。治療は中断となったので、ローラー鍼を用いた鼻や咽のセルフケアを勧めた。

同時に治療した症状

咳、痰、お腹の張り、便秘、トイレが近い、めまい、首肩こり、背中の痛み

考察

本症例では鼻や咽が良くなってきた27回目以降、徐々に味覚が回復してきた。その他にも鼻や咽の反応が良くなるとともに鼻水や咳や痰も治まっていったことから、鼻や咽頭部の炎症が味覚障害の原因だと考えられた。また鼻炎があると神経の反射を介して首や肩の筋肉を硬くするため、顔面部への血流が悪くなり、より回復に時間がかかったと考えられる。
その他にも鼻炎による口呼吸や顎の緊張による唾液の分泌低下があり、口腔内の環境が悪化していたことも味覚の回復の妨げになっていたと推察される。
鍼治療により鼻や咽頭部の炎症が改善したこと、首や肩の筋肉の緊張が取れたこと、唾液の分泌が増えたことが味覚障害の改善につながった。

その他にも長らく胃瘻を行っていたため胃腸の動きが低下、お腹の張りや便秘を起こしていた。こちらはお灸により徐々に胃腸の動きが良くなり改善した。

がん治療後の味覚障害だったため回復にはかなり時間がかかったが、患者の「食事を取れるようになりたい」という強い気持ちと、少ししか食べられなくても果敢に食事に挑戦する姿勢に支えられた。味覚障害の改善には鼻や咽などの体の回復はもちろんだが、感じにくい味を把握すること、食事に挑戦して味覚を呼び起こしていくこともとても大切だと感じる症例でした。

同じ病名や症状であっても効果には個人差があります。また、このページの症例は当院の経験であり、鍼灸の一般的な効果を意味するものではありません。